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良い音楽とは何か?

J.S.バッハこうしたことを書くと、おそらく色々な人から異論を出されるとは思いますが、あえてここで、私が現在考えていることを書いてみたいと思います。私がこうしたことを書こうとするとき常に思い起こすのは、作曲家パウル・ヒンデミットの説明です。彼が著書の中で主張するのは、人々が良いと思う音楽は、今まで聴き知っている音楽のことで、それに対してさらにオリジナリティが加わったものだということです。例えば・・・

ベートーベンの音楽は、彼の音楽が誕生した時の同時代人たちにとっては、聴き慣れないものだったと思います。ですが、彼の音楽には、ハイドンやモーツァルトなどの彼の師匠的な存在にあたる作曲家たちの影響が色濃く出ていました。事実、彼の初期の作品を聴いてみると、モーツァルトなのではないかと思われるほどに似ているものがあります。ですが、そこはやはり天才と呼ばれる作曲家で、それだけではない、彼のオリジナリティがそこに加わっているのです。このオリジナリティが、彼が人生経験を経るに従い、深化していくのです。

ですが、単なる革新性、新奇性だけでは、リスナーはついてきません。あまりにもオリジナリティにあふれているもの、新しすぎるものは、人々には受け入れられないのです。現にベートーベンの後期の弦楽四重奏曲『大フーガ』は、あまり当時の人々には受け入れらなかったようです。私はこの曲が個人的に大好きなのですが(聴いていて本当にカッコイイ!)、それは私が「聴き慣れている」から、あるいは、ベートーベンに影響を受けた数多くの作曲家の曲を知っていて、その作曲家たちの、ベートーベン的なフレーズに慣れ親しんでいるからでしょう。私が当時の人間であれば同じような反応をしていたかもしれません。モーツァルトやハイドンのいわゆる「行儀の良い」音楽とは違う、何か鬼気迫るものがあり、彼の曲を初めて聴いた人たちは本当に驚いたことでしょう。

話しを元に戻します。

ヒンデミットが言っていたのはまさに、この「慣れ親しんだ」曲のフレーズであり、このフレーズに慣れていると「心地良い音楽」、そしてそうでないと「分からない音楽」となり、このバランスが絶妙な人がいわゆる「天才」と呼ばれる人々でしょう。

かつてグレン・グールドが、現代音楽の創設者的な存在であるアルノルト・シェーンベルクの音楽について、彼の音楽を知らないから理解しないのであって、この音楽に慣れ親しんだ人であれば、必ず良い音楽と思うに違いないと言っていました。私個人の意見からすると、彼の音楽は「分かりづらい」音楽だと思っています。『浄夜』は非常にロマンティックで、ある意味「分かりやすい」音楽であるわけですが、それとは正反対の位置にある無調で書かれたその後の彼の音楽を私はどうしても好きになれません。もしかすると、彼の音楽しかこの世に存在しなかったのであれば、好きになっていたかもしれません。とは言うものの、あまりにも聴き慣れた「同じフレーズの」音楽を聴いていると聴衆は飽きてくるでしょう。そこで、天才の登場です。天才はこの聴き慣れたフレーズに対して、心地の良い革新性を入れてくるのです。規則に縛られた音楽を革新的な音楽で解放してくれるのです。

ここでぶっきらぼうにゲーテの言葉を書きます。

「自由でないのに自由であると思っている人間ほど奴隷となっている」

音楽の革新性とは、過去の制約を乗り越えたところにあり、過去から学んだことが現代的な観点から読み替えられることにあると私は思っています。意図的に新しいものをやろうとしている(クラシック音楽での)現代音楽は、こういう点で自由をはき違えている場合が多いのです。「自由」という理念が先行して、まったく意味のない音楽になってしまう、こういう場合が多いのは確かでしょう。模倣はオリジナリティの原点だと思います。単なる模倣からいかにしてオリジナリティ、すなわち自由を獲得するかが、その作曲家の力量と言えるところでしょう。

結論としては、やはり良い音楽か、そうでないかという判断は、その時代時代の感覚、そして過去の歴史により大きく左右されるということになるでしょうか。。。


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